建設DXとは?建設業の課題や建設DXが求められる理由、事例を紹介
- 公開日:2022年11月2日
建設DXとは、建設業におけるデジタル化やそれに伴う変革を目指す取り組みのことです。
国土交通省では、おもにインフラ分野のDXを進めており、環境整備や新技術の開発・導入の促進が積極的に行われています。
建設業では多くの課題を抱えており、DXの推進が急務とされているのです。
本記事では、建設業の具体的な課題とその解決方法や推進事例などを詳しく紹介します。
目次
建設DXとは
建設DXとは、従来の建設業の仕事方法、ビジネスそのものを変革させることをいいます。
建設業における就業者数は年々減少しており、担い手不足が大きな課題となっている業界です。
こうした課題に対応するために建設DXの取り組みが進み、生産性の向上を図ることに成功した事例も多く見受けられているのです。
建設DXは、企業のみならず国による積極的な取り組みも行われています。
たとえば生産性向上を目指すためのICTの導入、インフラの老朽化に対応するためのセンサーやITなどの活用、建物の3次元モデルを活用するシステムの導入促進など、幅広い範囲での取り組みが挙げられます。
建設業の課題│建設DXが求められる理由
建設業界でDXが求められるのは、以下のような課題を解決するためです。
- 手作業が多く生産性が低い
- 高齢者層が多く人材が不足している
- インフラ老朽化が問題視されている
手作業が多く生産性が低い
建設業の課題として、人の手による作業が多く生産性が低いというものがあります。
現場ごとに環境が大きく異なり、作業の標準化の実現が困難であることも、生産性の低さを後押ししてしまっているのです。
さらに建設生産においては業務プロセスが細分化され、各プロセスに多くの人が関わっているため、情報伝達・情報更新に時間や手間がかかってしまうことも問題視されています。
生産性が低いという問題は、業務の効率化が図れていないために起こる問題です。
さらに業務の効率化が図れていないということは、長時間労働のきっかけともなりえます。
高齢者層が多く人材が不足している
建設業界の就業者には高齢者層が多く今後の離職率アップが見込まれることにくわえ、就業者数が年々減少しているという深刻な人手不足状態にあります。
働き手がいても、後継者になりえる就業者数が少ないため、技能承継もままならない状態なのです。
こうした原因により、事業継続自体が危うい企業もあります。
建設業は地域の人々の生活を支えるのに大きな役割を果たすため、担い手の確保は急務といえるでしょう。
そのためにも、生産性が低く長時間労働であるという現状を打破し、魅力ある業界にすることが求められています。
インフラ老朽化が問題視されている
建設業界では、インフラ老朽化が大きな問題となっています。
たとえば普段利用する道路、上下水道、鉄道、病院、公園のほか、影で生活をささえる送電線、ダム、砂防などのインフラが老朽化すると、ライフラインの寸断にとどまらず、人命に関わる事故に発展する可能性があります。
こうしたインフラは従来より人の手によって作られたものであるため、経年や環境の影響によって劣化が進むものです。
インフラの老朽化が進むことで、2021年に実際に水道橋崩落事故が起こった事例もありました。
ほかにも小規模な事故は様々なところで発生しているため、国と民間企業が連携して取り組むべき大きな社会課題の1つとして注目されています。
建設業界のDX推進事例
建設業界のDX推進事例として、国をあげての取り組みについて見ていきましょう。
- 災害リスク情報等の3D表示
- ドローンや水中カメラによる巡視・点検
- 除雪機械による除雪作業の自動化
災害リスク情報等の3D表示
従来、紙面で配布されていたハザードマップのような災害リスク情報は、地図の色分けや数値で危険な地域を示すものでしたが、具体的なイメージは困難であることが課題として上がっていました。
そこで、だれもが直感的・空間的にもイメージできるよう、たとえば洪水浸水想定区域等の災害リスク情報を、地図を重ね合わせて表示できる3D表示を整備するなどしました。
3D表示によって、浸水しない建物の場所や浸水する可能性のある高さなどが、直感的にイメージしやすいものとなっています。
これにより、国や自治体では避難計画の策定、避難経路や避難施設等の検討がより具体的に行えるようになり、住民は自らの居住地に関して避難する建物へのルートや外観を確認することも可能となっています。
災害発生時にも、国、民間事業者、住民のスムーズな避難の一助となるでしょう。
ドローンや水中カメラによる巡視・点検
ダムの点検においては、細部の状況を把握するために、目視点検の補足調査としてドローンや水中カメラを活用しています。
ドローンによって撮影された画像をもとに、変状箇所を抽出、劣化マップ・劣化台帳の作成もスムーズに進んでいます。
またドローンや水中カメラは日常の巡視を補助するツールとしても使用され、幅広い場面で活躍の場を広げているといえるでしょう。
老朽化に伴ってダムの施設点検は今後増加する見込みがあるため、より安全で効率的な点検作業を実現するために水中維持管理用ロボットの導入が試験的に進められています。
除雪機械による除雪作業の自動化
広大な空港の除雪作業においても、労働力不足が深刻化しています。
そこで、限られた人数で除雪できる体制を整えるため、2023年度に積雪寒冷地域の空港で除雪装置の自動化実験が行われる予定です。
現在の除雪作業車には、除雪車各車両に運転士兼除雪装置オペレーターと助手の2人が搭乗しているため、まずはワンマンでの除雪作業を目指します。
運転手が運転に専念できるよう、除雪装置の操作を自動化する取り組みから進められています。
建設業界のDX推進で失敗する理由
建設業界がDX推進に失敗する理由として、大きくはDXに関する知識・理解の浅さが挙げられます。
これまでの慣習や体制を変えるためには、コストや成果がでるまでの時間がかかりすぎてしまうという大きな課題もあるのです。
経営者側も現場のメンバーも現状のやり方に困っていない、また作業方法が変わるほうが大変、という意識でいる場合には、デジタルへの苦手意識のほうが勝り、なかなか導入に踏み込めないケースが多く見受けられます。
DXを進めることを上からの指示で決定しただけでは、積極的な変革につなげることは困難です。
まずはDXに関する知識はもちろんのこと、DXを進めることのベネフィットを全社員が理解したうえで意識変革を行っていく必要があります。
建設業界のDX推進で必要になるスキル・知識
建設業界でDXを進めるためには、以下のような技術を活用していく必要があります。
- 3次元モデルデータ「BIM/CIM」
- 効率的な点検を行うために必要な「ドローン」
- データを一元管理するための「クラウド」
- 膨大なデータを処理する「AI」
- 情報通信技術「ICT」や「IoT」
- ディープラーニング(機械学習)
3次元モデルデータ「BIM/CIM」
3次元モデルデータとは、3Dデータを活用した建設過程における計画や設計を行えるほかにも、たとえば3Dプリンタで橋を作ることができるような技術です。
なおBIMは、主に建築物の規格がある設計で建築主や設計者に活用されるのに対し、CIMは橋やダムなどの土木構造物で使われ、国や自治体、鉄道会社、設計者などの幅広い施工業者に活用されるのが特徴です。
効率的な点検を行うために必要な「ドローン」
ドローンは、とくに高所の点検を安全かつ安価に行えるのが特徴です。
高所の点検が必要なケースとしては、橋、鉄塔、送電線などが挙げられます。
従来、こうした高所の点検作業には足場の組み立てを行う必要があったことから、予算不足や人手不足が深刻な問題でした。
ドローンの活用によって、安全性の確保は当然のこと、少ない人数かつ低予算で済むことも建設業の働き方改革推進の一助となるはずです。
データを一元管理するための「クラウド」
とくに建設業においては紙での情報のやり取りやアナログなシステムが根強い業界です。
しかし業務の効率化を図るには、まずデータを一元管理する必要があります。
各支店に分散したデータを一元化したり、各企業が別々に抱えるノウハウやフォーマットを共有し同一のものとすることで、より効率的な受発注や進捗管理を行えるようになるでしょう。
そのためにはクラウド型管理システムの早期導入の検討がおすすめです。
膨大なデータを処理する「AI」
たとえばAIで建設業界における熟練職人の映像を解析することにより得たデータを、ロボットや現場で働く就業者が現場業務に活かすことで、技術継承を支えることが可能となるでしょう。
また、3Dモデルデータの処理や、ドローンカメラの映像解析でインフラの老朽化を自動検知することなど、AIは建設DXのなかでも幅広く活用される技術といえます。
情報通信技術「ICT」や「IoT」
ICTを簡単にいうとインターネットのことで、loTはインターネット技術を活用しリモートで機器の操縦や機器からデータを受信する仕組みのことを指します。
これらの情報通信技術によって、企業と作業現場との情報交換や意思疎通をスムーズにし、やり取りにかかる時間や業務の非効率性を大幅に軽減できるはずです。
ディープラーニング(機械学習)
ディープラーニング(機械学習)とは、人間の脳がデータを処理する方法を模倣するように設計されたアルゴリズムのセットを使用して、大量のデータからパターンを学習する技術のことです。
ディープラーニングモデルは、画像、テキスト、音声などの入力データから有用な情報を抽出します。その後、画像認識、自然言語処理、予測モデルなど特定のタスクを実行できます。
建設業界で例えると、「現場で使用する機械やロボットの制御」「データを分析して安全違反を検出」「3Dモデリングやシミュレーションを通じて設計の最適化とプロトタイピングを支援」などを実現可能です。
DXの推進においては、発展したAI技術の一端であるディープラーニングの技術を取り入れることも検討してみてください。
建設DXを推進するには?
建設DXを推進するには、以下のステップで進めましょう。
- 現状を把握する
- 戦略、目標を立てる
- ツールを選定する
- スモールスタートで始める
- 評価や改善を繰り返す
1. 現状を把握する
まず、建設DXの基盤を築く第一歩として、現在の業務プロセスやシステムの問題点を洗い出して明確にし、デジタル化によって解決したい課題をリストアップします。
リストアップの段階では、以下の問題を特定すると良いでしょう。
- 時間のかかるタスク(時間のかかる作業や手続き)
- 非効率なプロセス(無駄な作業や手続き)
- データの不整合(バラバラの形式で管理されているデータ)
現状分析は、DXの方向性を明確にし、成功に向けた適切な基盤を築くために不可欠です。
2. 戦略、目標を立てる
次に、デジタル化の戦略と目標を明確に設定しましょう。具体的な目標を設定することで、取り組みの方向性を明確にし、成果を定量化することができます。
例えば、業務プロセスの効率化や顧客満足度の向上などの目標を掲げることができます。戦略と目標設定は、DXの進行を指南し、その成功を評価するために必要です。
3. ツールを選定する
デジタル化には、適切なツールやシステムの選定が欠かせません。適切なデジタルツールと技術の選定は、DXの効果を最大化し、目標達成をサポートします。
業務のニーズに合ったツールを選び、効率的な業務プロセスの実現を目指しましょう。例えば、業務に特化したソフトウェアやクラウドサービスを活用できます。
4. スモールスタートで始める
デジタル化の取り組みは、大規模な一気通貫ではなく、小さなステップから始めることが有効です。例えば、一部の業務プロセスのみをデジタル化することからスタートするなどです。
具体的な局面や業務プロセスから取り組むことで、段階的に成果を上げることができます。また、失敗のコストが低く、より速く学べ、改善にも役立ちます。
5. 評価や改善を繰り返す
デジタル化のプロセスでは、常に評価と改善を繰り返しましょう。新しいデータを取り込みながら、現状の課題や改善点を洗い出し、効果的なデジタル化を実現します。
定期的なモニタリングやフィードバックの収集を行い、PDCA等のサイクルを回すことが重要です。
建設DXで成功するためには?
建設DXで成功するためには、社員全体のDXリテラシーとITリテラシーを高めることが大切です。
- DXリテラシー(デジタル技術を活用してビジネス課題を解決する能力)
- ITリテラシー(デジタル技術を操作する基本的なスキル)
社員がデジタル技術やITツールに精通していると、効果的に利活用しながらプロジェクトの効率と生産性を向上できるからです。また、社員が新しい技術とプロセスを受け入れ、適応する能力が高いと、変革をスムーズに進行できて成功の確率も高まります。
そのため、各リテラシーを向上させるためには、研修や学習環境を整える必要があります。例えば、オンラインで受講できるコースや動画、書籍などの教材を提供したり、社内での勉強会や交流会を開催したりすることが有効です。
建設DXの将来性
建設DXの将来性は、高いと言えます。総務省が発刊する令和3年の情報通信白書において、2018年以降から実施している企業は13.5%にとどまっているためです。また、検討中を含めて実施していないケースは79.4%と高い水準です。
建設業界は、人手不足やコスト高、環境問題などの課題に直面していますが、DXによってこれらの課題を克服できます。例えば、ドローンやAIなどの技術を使って現場の監視や測量を行ったり、BIMやVRなどの技術を使って設計や施工をシミュレーションしたりなどです。
結果として、作業時間や人件費の削減、品質や安全性の向上、環境負荷の低減などに貢献します。また、データを収集・分析・活用することで、より最適な施工計画や運用管理が可能です。
そのため、建設業界のDXは今後の成長を加速させるためにも重要な取り組みであり、将来性を考えるとその必要性も高まっていると言えるでしょう。
建設業界のDX推進のためにも人材を育成しよう
建設業界では、深刻な人手不足や非効率的業務が根強いのが大きな課題として挙げられます。
こうした課題を早期に解決するためには、国だけでなく民間企業においても建設DXの取り組みをできるだけ早い段階で始める必要があるでしょう。
DX人材育成会社のデジタルグロースアカデミアでは、デジタル化・DXに関する研修が充実しているうえに、いつ・どこにいても受講できるe-ラーニングの整備から企業に合ったコンサルティングまで、幅広いサポートを提供しています。
まずは社内業務のデジタル化を進めたり、建設現場でデジタル技術を活用したりする取り組みを目指すために、ぜひデジタルグロースアカデミアでデジタル化導入についての相談をしてみてください。
【監修】
日下 規男
ディジタルグロースアカデミア マーケティング担当 マネージャ
2011年よりKDDIにてIoTサービスを担当。2018年IoTごみ箱の実証実験でMCPCアワードを受賞。
2019年MCPC IoT委員会にて副委員長を拝命したのち、2021年4月ディジタルグロースアカデミア設立とともに出向。
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