DX推進を阻む課題とは?各分野のDXが抱える課題解決方法について解説:DXコラム
更新日:2022年10月11日
経済産業省の「DXリテラシー標準」(2022年)によれば、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、競争上の優位性を確立するためには、業界・業種を問わずDXを推進する必要があるといわれています。しかし、欧米などに比べて日本企業ではDXが進んでいないのが現状です。
日本企業のDXが遅れている主な原因として、①DX人材不足/社員のスキル不足、②企業トップや社内全体がDXの必要性を理解していない、③ITへの資金投資不足の3点が挙げられます。DXを推進していくためにも、まずは現状や課題をチェックした上で、自社が解決すべきことを見つけていきましょう。
目次
DXとは
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略語で、「デジタル技術の活用によって生活やビジネスをより良く変化させる」ことと定義されています。
「DX」は、一般的に知られている「IT化」とは意味が異なります。
まず、「IT化」とは、業務を効率化するために、デジタル技術を導入し、データを活用することを意味します。例えば、これまでのビジネスにおける連絡手段は電話や手紙だったのが、Eメールやチャットツールに置き換わったのが典型的なケースです。
一方で「DX」とは、単なるIT技術の導入、業務効率の改善だけにとどまらず、そこから一歩踏み込んだビジネスモデルの再構築や、ビッグデータを活用したマーケティング活動などを意味します。
DX導入の現状
多くの企業が未着手
多くの企業では、DXを推進する必要性に気付いておらず、導入が遅れています。また、DXの必要性に気付いていても、「必要性が増したタイミングでベンダー企業に任せればよい」という誤った認識によって、DXが後回しにされているのが現状です。
こうした認識は、社内にIT人材がいないことにより生じやすくなります。社内にIT人材がいれば、会社全体のDX推進に関する気風が高まることが期待されます。
また、DXは一部門だけで行うものではなく、一定の経営戦略のもと企業全体で取り組む必要があるため、システムへの投資も必要です。
これを実現するには、社員の力だけではなく、経営層のコミットメントが必須になります。全社を挙げてDXを推進するためには、まずは経営層がDXに取り組む意思を持つことが大切です。
世界デジタル競争力ランキングで28位
諸外国と比べて日本企業のDXが遅れていることを示すデータとして、スイスのIMD(国際経営開発研究所)が毎年発表している「IMD世界競争力ランキング(World Competitiveness Ranking:WCR)2022」 を取り上げます。これは、世界主要各国のデジタル競争力をランキングにしたもので、日本は全64ヶ国中34位と中位グループに属しており、アジア圏で比較すると10位圏内のシンガポールや韓国、中国から大きく引き離されています。
アジア各国の競争力は、2013年~2015年まで、シンガポールを除いて混戦状態にありました。しかし、2017年からアジア各国の競争力が全体的に上昇し、日本のランキングは22位(2018年)→28位(2021年)→34位(2022年)と下降の一途を辿っています。
日本がアジア圏の競争から外れた大きな要因としては、技術力や将来への備えという観点において、国際的な評価が得られなかったことが考えられます。
なおTOP5は表1のような順位となっています。
2021年 | 2022年 | |
---|---|---|
1位 | アメリカ | デンマーク |
2位 | 香港 | スイス |
3位 | スウェーデン | シンガポール |
4位 | デンマーク | スウェーデン |
5位 | シンガポール | 香港 |
: | : | |
日本(28位) | 日本(34位) |
引用:
- IMD『IMD WORLD DIGITAL COMPETITIVENESS RANKING 2021』pp.28-29(2022年9月28日取得)
- IMD『IMD WORLD DIGITAL COMPETITIVENESS RANKING 2022』pp.32-33(2022年9月28日取得)
上表1について、2021年と2022年のデータを比較すると、上位国(1位~5位)のほとんどが変動していることが分かります。つまり、日本が28位(2021年)→34位(2022年)と低迷するなかで、他国のデジタル技術の発展は目覚ましく、とりわけ上位国は混戦状態にあるということです。
参考:
DX推進の課題とは
日本企業におけるDX推進の課題は、大きく分けて次の3点です。
上記それぞれの項目について、以下に解説します。
DX推進の課題:①人材不足
まず、「人材不足」です。多くの企業が、DX推進に取り組む際に直面する課題として、社内のDX人材不足があります。言わずもがな、DXの推進にはDX人材の存在が欠かせません。したがって、早急な人材育成・人材確保が求められます。
そもそも、なぜDX人材を自社で育成する必要があるのでしょうか?優秀なDX人材とは、DXそのものに明るいだけでなく、自社のビジネスモデルも理解している必要があります。外部ベンダーにDX推進の多くを依頼することも可能ですが、「デジタル技術に精通しており、尚且つ自社のビジネスを理解しているDX人材」を社内で育成する方が、会社のメリットが大きいのです。
DX推進の課題:②DXに関する経営戦略不足
続いて、「DXに関する経営戦略不足」です。DXに関する経営戦略が不足している企業では、「DXで何を実現したいのか」が確立されておらず、進められない現状があります。特に、DXを業務効率改善などの意味合いで捉えている企業は、そもそもどのような視点でDXを活用した経営戦略を立案すればよいのか、考えが至らない場合が多いです。
会社全体で、ビジョンやロードマップを確立し推進していく必要があるため、まずはDXによってどのような価値を生み出せるのかを会社全体がイメージしなければ進められないでしょう。
DX推進の課題:③DXへの投資不足
最後に、「DXへの投資不足」です。DXへの人材・資金の投資が不足していることも、DX推進の課題です。
経済産業省の調査によると、日本企業の多くは、IT関連費用の9割を現行システムの維持費や業務効率化・業務コストの削減に使用しており、アメリカが「攻めのIT投資」を行っているのに対して、日本は「守りのIT投資」を行っていると述べられています。
「攻めのIT投資」をするアメリカが、前述の「世界デジタル競争力ランキング」(2021年度版)で1位を獲得していることからも、日本は「守りのIT投資」の姿勢を見直し、DXへの人材・資金投資が喫緊の課題といえるでしょう。
参考:
日本のデジタル競争力低迷の理由
他国と比べて日本企業のDXが遅れているのは、次の3点がボトルネックとなっていることが考えられます。
上記それぞれの項目について、以下に解説します。
日本のデジタル競争力低迷の理由:①テクノロジーに関する理解が足りない
日本のデジタル競争力低迷の理由として、1つ目は、「テクノロジーに関する理解が足りない」ことが挙げられます。DXを進めるには、テクノロジーに関する理解が必要です。DXに活用されるテクノロジーには、以下があります。
- loT
- センシングデバイス
- AI
- ビッグデータ
- クラウドコンピューティング
- エッジコンピューティング
- 5G
- AR
- VR
- サイバーセキュリティ
こうしたテクノロジーの存在は把握していても、「これらを活用して何ができるのか」、「どういったビジネスを生み出せるのか」といったことを議論し、テクノロジーを活用する目的がイメージできる人は少ないでしょう。まずは、テクノロジーを使って何ができるのかを理解することが、DX推進の第一歩です。
日本のデジタル競争力低迷の理由:②DXの人材育成が難しい
日本のデジタル競争力が低迷する理由として、2つ目に「DXの人材育成が難しい」ことがあります。DXを推進するために必要な人材・職種としては、以下が挙げられます。
- プロダクトマネージャー
- ビジネスデザイナー
- テックリード(エンジニアリングマネージャー、アーキテクト)
- データサイエンティスト
- 先端技術エンジニア
- UI/UXデザイナー
- エンジニア、プログラマー
上述の通り、DXの推進には、プロジェクトを主導するプロダクトマネージャーや、ビジネスとデジタルシステムを繋ぎ全体像を設計するビジネスデザイナー、それらを実装・インフラ構築などを担うエンジニア、プログラマーが必要です。
このような熟練したスキルを身に付けた人材が自社にいたとしても、特定の人材が会得しているデジタル技術やノウハウを後継者に継承・拡散することは、技術の形式知化や暗黙知の共有など、さまざまな課題を孕んでいます。作業マニュアルやナレッジマネジメントの仕組みを作っても形骸化し、人材育成がうまくいかないケースも多くあります。
日本のデジタル競争力低迷の理由:③データをうまく活用できていない
3つ目の理由は「データをうまく活用できない」ことです。DXのメリットは、データを活用することで業務・ビジネスが大きく変容することですが、業務フローを見直す必要性やどのように変えたら良いか見通しが立てられないことから、データを集められたとしても全く活用できない現状があります。
データを活用していない段階から、いざデータを活用しようと発心しても、前例踏襲型の企業文化や失敗を恐れる風土があるため、適切なデータ活用の体制や業務基盤の構築に至らないケースがあります。
各分野が抱えるDXの課題
様々な界隈において、DXの推進は課題となっています。
IT企業だけでなく、自治体や建設業などにおいても、テクノロジー技術の導入は急務です。ここからは、様々な業界・職種における、DX推進の課題についてまとめます。
社内DXの課題
社内DXとは、新たなデジタル技術の導入により従業員の働き方や組織の体制自体を変容させることです。DXを企業全体の変革とするなら、社内DXは組織や部門ごとの変革を意味します。
社内DXの課題は、テクノロジーの理解不足や人材・資金不足がありますが、特に問題なのが経営層のDXに対する理解不足です。たとえ社員が課題を感じていても、それだけで会社を動かすには限界があります。DX推進の成功は、経営層の理解に左右されるといっても過言ではありません。
自治体DXの課題
自治体DXは、企業のDXと比べてほとんど進んでいません。株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所の調査によると、全国の自治体の約8割がDXへの取り組みが充分ではないと回答しています。
例えば、役所の窓口で電子申請のシステムを導入しているにも関わらず、申請された情報を職員が再度手入力している、というケースがあります。デジタル技術を導入したものの、その先のシステムをどのように整えたいのかが明確でないと、単にIT化を進めただけの状態で終わってしまいます。
また、紙ベースの管理文化が根付いている自治体においては、人手不足も相まって職員1人あたりの業務量が年々増加し、業務効率が下がっています。この現状を放置すれば、自治体をよりよくするための政策にまで手が回らず、住みやすい街を求めて人口が流出し、自治体の活気が失われるようなこともあり得ます。
住みやすい街づくりを進めていくためにも、自治体DXの推進も急務であるといえるでしょう。
参考:
建設DXの課題
建設DXとは、デジタル技術によって建設業の業務効率や体制・ビジネスを変革することです。
2020年の建設業の平均就業者数は、1997年のピーク時から約28%も減少しており、担い手・後継者不足が課題となっています。
建設業は、DX推進によって生産性の向上が大きく見込める分野でもあるため、大手だけでなく中小建設企業においても建設DXの取り組みが始まっています。
DXの課題を解決・促進するためにできること
DXの課題を解決・促進するのに効果的な取組は、次の3つです。
- DX人材の育成
- DXを用いた会社のビジョンの共有
- DX促進技術の導入
DXの課題を解決・促進する取組み:①OJTによるDX人材の育成
DXの課題を解決・促進させるには、DX人材の育成は欠かせません。
デジタル人材を集めたとしても、それぞれの役割は1つに留まらないため、より幅広い専門スキルが求められます。
人材の育成において、座学だけではスキルを身につけてもらうことはできません。
課題発見、企画、実行といった非認知的スキルは、OJTによって鍛えていきましょう。
DXの課題を解決・促進する取組み:②DXを用いた会社のビジョンの共有
DXを推進していくためには、DXを用いた会社のビジョンを共有することが大切です。
業務の一部をIT化するだけでなく、会社組織全体がデジタル変革を目指さなければ、日々変革する社会への価値提供は不可能です。
たとえば、りそなホールディングスでは、従来であれば窓口でしか受けられなかった多くの銀行サービスを、スマホのアプリ一つで完結できるシステムを整えました。
これは、スマホでの買い物やサービスの利用が当たり前になった現代においては、インフラと同様になくてはならないサービスとなっています。DXを用いてどのような変革を遂げたいのかを明確にし、共有することで賛同や協力を得られやすくなり、具体的な戦略や計画の立案もスムーズに進むでしょう。
DXの課題を解決・促進する取組み:③DX促進技術の導入
DX推進のためには、技術の導入は不可欠です。
DXを推進していくには、目まぐるしい変化を遂げる技術革新や環境、ニーズに柔軟に対応するための開発手法や思考法を取り入れる必要もあります。
新しい技術や手法の導入にはハードルを感じやすいため、DX促進のための技術や専門的な知識をもつ外部の人材育成会社への依頼も検討してみましょう。
まとめ
日本において、DXの推進が急務であることをご紹介してきました。
まずは企業などの経営陣がテクノロジーに関して理解し、人材育成を進めることが重要です。
ディジタルグロースアカデミアでは、デジタル人材の育成体系や研修プログラムがパッケージとして用意されています。
プロによる人材教育からコンサルティングを受けることで、まだまだ世界に後れを取っている日本国内におけるDX推進の先駆者となり、従業員や人々の生活をより良いものとしていくための技術を身につけていきましょう。
【監修】
日下 規男
ディジタルグロースアカデミア マーケティング担当 マネージャ
2011年よりKDDIにてIoTサービスを担当。2018年IoTごみ箱の実証実験でMCPCアワードを受賞。
2019年MCPC IoT委員会にて副委員長を拝命したのち、2021年4月ディジタルグロースアカデミア設立とともに出向。
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