観光業界がDX推進を行うメリットとは?課題や事例も紹介
- 公開日:2023年4月4日

日本の観光産業が抱える課題はDX推進によって大きく改善される可能性を秘めています。
新型コロナウイルスの影響で停滞した観光業ですが、現在は規制も緩和など回復の兆しを見せています。しかし、DX推進が滞っている現状では集客や再訪促進といった施策が完璧な形で打てておらず、機会損失を出しているのが現状です。
本記事では海外でも後れをとる観光業界のDX推進について解説します。観光DXとは何か、業界が抱える課題をDXでどう解消していくのかにも触れますので、ぜひ最後までご一読ください。
目次
観光DXとは

観光DXとは、観光庁が推進する観光事業者と地域の連携を強めるための取り組みです。デジタル技術の導入により、従来の旅行産業を変革することが大きな狙いです。
観光DXは新たなビジネスモデルを生み出すことやビジネス戦略を立案するため、以下に挙げる4本の軸で観光産業を刷新します。
- 旅行者の利便性を向上させる
- 観光地のデジタル化を進める
- 観光産業の生産性を向上させる
- 観光デジタル人材を育てる
観光DXは、旅行者と旅行事業者の双方に働きかける取り組みです。
旅行者にホームページやアプリの利用を促進させることで、便利で快適な旅を支援します。
旅行事業者は、集客から接客までの業務をデジタル化によって効率化・高度化できるでしょう。
また、観光デジタル人材と呼ばれる人材を育てていくことで、マーケティング能力や観光産業におけるビッグデータ活用も推進できます。
観光業界がかかえる課題

観光業界がかかえる課題は、以下の4つが挙げられます。
- 離職率が高い
- 生産性が低い
- デジタル化が遅れている
- コロナウイルスにより利益が減っている
離職率が高い
観光産業に携わる人材の離職率は、他の産業と比べても高いとされています。
まず、観光地を支える宿泊業・飲食業分野の離職率は平均で25.6%です。他業界と比べてももっとも離職率が高く、過酷な労働環境が伺える結果となりました。
離職者が増えてしまう具体的な要因には、以下が挙げられます。
- 仕事内容が忙しい
- 対人関係にまつわるストレスが多い
- 薄給
労働環境を整備し、働きやすい環境を整えていくことが求められています。
生産性が低い
観光産業は、他業界と比べても生産性が乏しい業界とされています。1人の従業員が生み出す付加価値額を見ても明らかで、他業界が700万円前後であるのに対し宿泊業では500万円程度です。
これは、1人の旅行者をもてなすのに、よりたくさんの従業員の手が使われていることを意味します。生産性を向上させるためには、集客から接客までの業務フローを根本から改善する必要があるでしょう。
デジタル化が遅れている
観光業界は、他業界と比較してもデジタル化の遅れが指摘されている業界です。
スマートフォンの普及により改善傾向にはあるものの、予約や業務の管理はまだまだ人の手を介して行われているため、デジタル化を推進するための取り組みを考えなければなりません。
コロナウイルスにより利益が減っている
観光産業が抱える問題点として、昨今大きく取り沙汰されているのがコロナウイルスによる利益減です。2020年に倒産した118件もの宿泊業者のうち、約半数の55件がコロナによる収益減を倒産の理由としています。
どうにか経営を続けてきた事業者も債務比率が高まっているため、DX推進による業務効率アップが叫ばれています。
観光業界がDX推進を行うメリット

DXの推進において、観光業界が享受できるメリットは以下の5つです。
- 生産性の向上
- ニーズに合ったサービスの提供
- 問題点の可視化
- 新しいビジネスモデルの開発
- 変化していく市場への対応力向上
生産性の向上
観光産業がデジタル化すると、業務効率を大幅に改善し、生産性も向上するメリットがあります。
例えば、自社サイトの他複数の旅行サイトからネット予約を受け付ける場合、観光業者にとって空室管理は大きなウエイトを占める業務です。デジタル化によって空室という在庫を一元管理できれば、手間を省いて生産性向上が見込めます。
業務管理においても必要なタスクの優先順位づけがしやすく、ヒューマンエラーも防げるでしょう。
ニーズに合ったサービスの提供
観光業界のDX推進には旅行者により的確なサービスを提供できるというメリットがあります。
ビッグデータを収集することで、顧客の嗜好にあわせたサービスを提供でき、データの蓄積も可能となります。顧客の満足度を上げるだけではなく、再訪促進といった消費拡大もデジタル化によって容易になるでしょう。
問題点の可視化
観光産業でDXが推進されれば、業務改善に役立つ問題点の可視化も進みます。
人の手を介して行われる作業にはミスがつきものです。既存システムを利用した顧客管理におけるリスクを回避するには、まずどういった点が課題なのかを整理します。
デジタル化によってスムーズに業務を進められる体制を構築できれば、業務における問題点もすぐに見つけやすくなるでしょう。
新しいビジネスモデルの開発
DX推進の遅れている観光産業では、新しいビジネスモデル開発の余地がまだまだたくさんあります。従業員の業務負担が軽減されれば、サービス向上に向けた施策もより簡単に実施しやすくなります。
そのなかで既存ビジネスにあった課題を解決するため、新しいビジネスモデルに直結するようなアイデアが浮かぶとも考えられるでしょう。
変化していく市場への対応力向上
観光業界におけるDX推進は、変化する市場への対応力向上にも力を発揮します。産業を取り巻く環境は刻一刻と変化しており、時にはコロナウイルスのように予想だにしていなかった事象が発生することも念頭に置かなければなりません。
DX推進によって業務を効率化すれば人的資源にも余裕が出ます。平常業務をスムーズにこなせるため、変化する市場にも対応しやすくなるでしょう。
観光業界がDX推進を行うデメリット

観光業界がDX推進によって被るデメリットには以下の3つがあります。
- 導入コスト・手間がかかる
- DX人材の確保・育成が必要になる
- すぐには結果がでないこともある
導入コスト・手間がかかる
観光産業におけるDX人材の育成にはコストと手間がかかります。デジタル化されていない観光事業の通常業務において、DX推進によるデジタル技術導入は大きなハードルがあるでしょう。
パソコンの操作といった基本的な作業であっても全従業員に周知徹底・推進するにはかなりの時間がかかってしまいます。
必要に応じて社内研修のような勉強会を実施するには大きな労力がかかるため、計画的なDX推進が欠かせません。
DX人材の確保・育成が必要になる
観光業界でDX推進を考えるなら、DX人材の確保・育成についても考えておく必要があります。観光事業のDXにはビッグデータの収集や管理といった高いデジタル技術を要します。
観光産業の特性・業務を熟知した上で、こうしたデジタル技術を扱える人材はなかなかいません。必要に応じて育成する手間もかかるため、DX人材の確保・育成に対する手間とリスクは考慮しておきましょう。
すぐには結果がでないこともある
観光産業のDX推進は、結果がすぐ出ないことも想定しておかなければなりません。DX推進はデジタル化を進めるだけに留まらず、中長期的なビジネス戦略の策定にも通じます。
社内の体制強化や市場とのすり合わせも加味しなければならないため、すぐに結果が出ないことも十分に想定されるでしょう。
観光業界でのDX推進事例

実際に観光業界で成功を収めたDX推進事例を4つ紹介します。
- 混雑状況の配信サービス
- バーチャルツアー
- 観光案内所の無人化
- スマホによるチェックアウトサービス
混雑状況の配信サービス
観光地にありがちな課題の一つである混雑緩和も、DXによってプログラムされた混雑状況を配信するサービスの導入で解消されています。
具体的には観光施設の混雑状況をバーチャル空間に表示させたり、アミューズメント施設でのアトラクション混雑状況の配信などがあります。
混雑状況が事前に分かることで旅行者のストレスは解消され、生産性も向上させられるでしょう。混雑緩和はもちろん、混雑する状況を生み出さない事前対策にも一役買っています。
バーチャルツアー
バーチャルツアーをはじめとした仮想空間の活用も観光産業のDX推進で大きな成果を収めています。
歴史的建造物を辿りながら観光地を巡るバーチャルツアーでは、DXを活用すれば施設の遊覧だけではなく、クイズの出題などイベントを設定することも容易です。
ツアーのコンテンツが充実する他、ECサイトとの連動で特産品の販売など旅行者にさまざまな体験を提供するきっかけづくりにも一役買っています。
観光案内所の無人化
DX推進は観光案内所における人的コストの削減も見込めます。
観光地は場所によって繁忙期と閑散期がわかれる場所もあり、その都度、人員の確保に苦労する観光業者が少なくありませんでした。DXによる観光案内所の無人化は、そうした人的コストの無駄を省くのに効果的です。
スマホによるチェックアウトサービス
スマホによる人の手を介さないチェックアウトサービスは、比較的どの観光業者でも取り入れやすいDX事例の一つです。
従来のチェックアウトといえば、スタッフに鍵を返し、清算など必要な手続きを対面で済ませる必要がありました。宿泊者の利用状況の確認も人が行わなければならなかったため、時間とコストがかかっていました。
スマホによるチェックアウトサービスは、宿泊者の利用状況を一元管理し、非対面で決済が済ませられるサービスです。宿泊業者もロビーに配置する人員を減らせる他、旅行者にとっても待ち時間を削減できるといったメリットがあります。
観光DXの導入ステップ

観光DXの導入ステップは、以下の通りです。
- 戦略を策定する
- デジタル化を行う
- 新しいビジネスモデルのアイデアを出す
- DXプロジェクトの導入と実施を行う
- 評価や継続的な改善を行う
難しく考えるのではなく、機能やサービスを限定して小規模からはじめる「スモールスタート」を意識して展開しましょう。評価や継続的な改善を繰り返し、徐々に拡大しながら進めてみてください。
1. 戦略を策定する
観光DXを導入する前に、まずは戦略を策定することが大切です。戦略を策定する際には、以下の点に注意してください。
- 自社や地域の強み・弱み、競合や顧客のニーズなどを分析する
- 目標やビジョンを明確にする
- KPIや目標値を設定する
- 予算や期限、担当者や役割分担などを決める
戦略を策定することで、観光DXの方向性や優先順位が明確になります。また、戦略を共有することで、関係者の意識やモチベーションも高まります。
2. デジタル化を行う
次に、観光業界に特化したソフトウェアやツールを選定して、デジタル化を行います。デジタル化を行うことで、観光事業者や地域は以下のメリットが得られます。
- 動向や満足度などのデータ収集・分析が容易になる
- コミュニケーションや予約・決済などのプロセスが効率化される
- 観光体験やサービスの質が向上し、差別化を図れる
では、具体的にどのような業務をデジタル化できるのか、具体例を紹介します。
予約管理
予約管理のデジタル化によって、予約の受付や確認、変更やキャンセルなどがオンラインでスムーズに行えます。また、チェックインとチェックアウトなども、スマートフォンやタブレットなどのデバイスを使って自動化できます。
マーケティングと広告
マーケティングと広告では、顧客の行動や好み、フィードバックなどのデータを収集して分析できます。分析結果によって、顧客のニーズや期待に合わせて個別にカスタマイズされたオファーやプロモーションを提供できるでしょう。
データ分析と予測
データ分析と予測によって、大量のデータを高速かつ正確に処理し、可視化することができます。観光地や施設の利用状況や傾向、季節や天候などの影響要因、市場や競合他社の動きなどは意思決定に役立ちます。
支払いと請求
支払いと請求をデジタル化することによって、支払いや請求のプロセスを簡素化し、安全性や信頼性を高めることができます。例えば、電子決済や仮想通貨などのオンライン決済サービスを利用することで、現金やカードの取り扱いを減らし、手数料や人によるミスのリスクの削減などができるようになります。
観光情報提供
観光情報提供においても、デジタル化で観光情報の収集や更新、配信を迅速かつ正確に行うことができます。サイトやアプリなどのチャネルを通じて、観光地や施設の詳細な情報や口コミ、予約状況などをリアルタイムで提供が可能になります。
セキュリティとプライバシー
セキュリティとプライバシーは、観光業界でデジタル化に伴う課題やリスクを管理するために必要な業務です。暗号化やバックアップなどの技術を使って、データの漏洩や改ざん、紛失などを防止できます。
3. 新しいビジネスモデルのアイデアを出す
デジタル化した後は、従来とは異なる価値提供方法や収益源などの新しいビジネスモデルのアイデアを出します。
デジタル化で得られたデータを基に、観光客のニーズや課題を見つけ、解決する方法を考えましょう。また、新しいビジネスモデルの市場規模や競争力、収益性などを考慮しておくことも大切です。
4. DXプロジェクトの導入と実施を行う
新しいビジネスモデルのアイデアが出たら、新しいビジネスモデルを実現するための具体的な計画や行動を決めるDXプロジェクトの導入と実施を行います。
- 目的や内容、スケジュールなどを明確にする
- 関わる人や組織、パートナーなどを決める
- D進捗や成果、課題などを定期的に確認・報告する
DXプロジェクトの導入と実施を行うことで、新しいビジネスモデルが具体的に形になり、効果や問題点も明らかにできます。
5. 評価や継続的な改善を行う
DXプロジェクトが完了したら、評価や継続的な改善を行います。成果や課題を分析し、次のアクションに反映させましょう。
具体的には、KPIや目標値と実際の数値を比較したり、成功要因や失敗要因を洗い出したりすることなどです。DXプロジェクトの改善点や次の課題を明確にできれば、より効果的な施策を打ち出せます。
このように、観光DXはスモールスタートで始めることができます。まずは戦略を策定し、デジタル化を行い、新しいビジネスモデルのアイデアを出しましょう。
観光DXの将来性

観光DXの将来性は、非常に高いといえます。国内外で積極的に取り組まれており、日本の観光庁も観光DXの推進に力を入れています。
例えば、観光地・観光産業全体の最適化を目指し、観光地の持続可能な成長を実現するために、2027年度をターゲットとしたKPIとロードマップを定めています。観光庁は、このロードマップに沿って、観光DX推進に向けた具体的な施策を講じていくとしています。
また、海外でも観光DXの導入が進んでいます。
例えば、OECD(経済協力開発機構)では、デジタル技術を活用して観光ビジネスモデル、バリューチェーン、およびエコシステムの強化を促進を、欧州委員会では、7か国の130の観光SMEsがEUの資金提供とキャパシティビルディングプログラムを受け取り、DXのプロセスを支援するなどが行われています。
このように観光DXは、国内外で持続可能な観光の実現に向けた重要な取り組みが実施されていることから、将来性は高いといえるでしょう。
まとめ

DX推進は観光事業者にとって大きな業務改善を促します。観光業界の担い手が抱えている課題を解決するだけではなく、旅行者にも今までになかったサービスや体験を提供できるなど大きな役割を果たすでしょう。
人的コストの削減や予約の一元管理など、業務フローの見直しを考えているなら、DX推進は大きなメリットが得られる施策といえます。
また、DX人材に顧客データの管理やデータの分析を任せられれば、集客キャンペーンがよりスムーズに行えるようになり、再訪の促進にもつながります。
ディジタルグロースアカデミアには、観光産業の特性を理解したDX人材の育成ノウハウがあります。
自社でDX人材を育成したい、業務フローを時代に合った形に変えたいという人はぜひお問い合わせください。
【監修】
日下 規男
ディジタルグロースアカデミア マーケティング担当 マネージャ
2011年よりKDDIにてIoTサービスを担当。2018年IoTごみ箱の実証実験でMCPCアワードを受賞。
2019年MCPC IoT委員会にて副委員長を拝命したのち、2021年4月ディジタルグロースアカデミア設立とともに出向。
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