攻めのDXと守りのDXの違いとは?攻めのDXの実践方法を紹介
更新日:2023年12月26日
経済産業省では、産業界のDX推進に向けて、「デジタルガバナンス・コード DX認定制度」や「DX推進指標」などの様々な施策を展開しています。
また、毎年9月と10月を「DX推進指標」の集中実施期間と定めたり、補助金制度等の行政手続のデジタル化を通じた効率化・官民の生産性向上と、データに基づいた政策立案、国民・事業者サービスの向上を組織として推進したりしています。
こうした取り組みが行われているDXには、「攻めのDX」と「守りのDX」という2つの側面があります。本記事では、「攻めのDX」と「守りのDX」の違いや重要性、メリットについて解説します。ぜひ参考にして、バランスの良いDXの推進を実施してください。
目次
攻めのDXと守りのDXの違いとは?
DXには、以下に挙げた2つの方向性があります。
攻めのDX | 守りのDX |
---|---|
競争力強化を目指す | 業務効率化に注力する |
外部に焦点を当てる | 内部に焦点を当てる |
市場や顧客の変化への迅速な対応、新技術の利用、ビジネスモデルの変革などを目的とする | システムの更新、IT化、コスト削減などに焦点を当てる |
根本的な転換が行われ、リスクを伴う | 安定した改善を重視する |
イノベーションが生まれるが、安定性や効率性が失われる可能性がある | 安定性や効率性を確保できるが、イノベーションが停滞する可能性がある |
攻めのDXと守りのDXは、相反するものではなく、相補的なものです。両方にバランスよく取り組むことで、ビジネスや社会に最大限の価値を提供できるでしょう。
攻めのDXの定義
攻めのDXは、外部の顧客やステークホルダー向けに行う革新的なデジタル変革です。具体的には、以下のような活動が含まれます。
- 新しいビジネスモデルの開発
- 顧客接点の改革
- 既存の商品やサービスの高度化
- 新技術やアイデアを活用した市場での差別化
攻めのDXは、市場や顧客ニーズに応じて自社のビジネスを変えることで、競争力を強化し、新たな価値を創出することを目指します。攻めのDXは、よりアクティブな取り組みを必要とし、根本的な転換が行われるため、リスクも伴いますが、市場や顧客の変化に対応し、競争優位性や収益性を向上させるために必要です。
攻めのDX事例
攻めのDX事例として、サンスターでは、デジタルマーケティングに取り組み、「クラブサンスター」という消費者向けの会員サイトの運営やSNSを活用しています。これにより、消費者とダイレクトにコミュニケーションを取っており、消費者の嗜好やトレンドを把握し、商品開発の参考や在庫削減に役立てています。
そのほか、以下の事例が挙げられるでしょう。
企業名 | 事例 |
---|---|
ミスミグループ本社(製造業) | 「meviy」というプラットフォームを通じて、設計データから数秒で価格と納期を自動見積もりし、部品調達プロセスを効率化 |
中外製薬(製薬業) | AI技術「MALEXA-LI」を用いて創薬プロセスを短縮し、新薬開発の成功率を向上 |
三越伊勢丹ホールディングス(小売業) | 顧客の足型データをクラウドに保存し、最適な靴を選ぶサービス「YourFIT365」を導入 |
みんなの銀行(金融業) | スマートフォンだけで即日口座開設が可能なサービスを提供 |
守りのDXの定義
一方、守りのDXは、企業の内部プロセスや運営の効率化と改善に焦点を当てたデジタル変革を指します。具体的には以下のような取り組みが挙げられるでしょう。
- 業務プロセスのデジタル化
- 経営データの可視化
- 業務の自動化や効率化
守りのDXは、自社内部における業務やシステムを見直すことで、コスト削減や生産性向上を図ることを目的とします。安定した改善を重視するため、リスクは低いですが、成果も限定的になりがちです。しかし、コストの削減や品質向上など、ビジネスの継続性や持続可能性に貢献します。
守りのDX事例
サンスターでは、テレワークを進めるためにOffice 365の導入やコラボレーション環境のクラウド化を実施しました。これにより、新型コロナウイルスの緊急事態宣言時には迅速にテレワーク体制に移行しています。また、ペーパーレス化を進め、変化の激しい時代に対応できるアジャイルな業務プロセスの構築を目指しています。
その他にも、以下の事例が守りのDXとして挙げられるでしょう。
企業名 | 事例 |
---|---|
味の素(食品業) | 包装工程管理システムを開発し、スマートファクトリー化を実現 |
ユニ・チャーム(消費財業) | 紙おむつのサブスクリプションサービスやデジタルスクラムシステムを開発 |
LIXIL(建材業) | AIを活用したオンラインショールームやスマート宅配ポスト、ホームモニタリングシステムを開発 |
IHI(重工業) | IoTプラットフォームとカスタマーサクセスダッシュボードを活用し、ビジネスモデルの構築やデータ重視の企業文化づくりを進める |
日本の現状
日本におけるDXの現状は、成果の実感を得やすい「守りのDX」に集中しており、「攻めのDX」の取り組みは遅れています。実際に、NTTデータ研究所のアンケート結果において、業務処理の効率化・省力化(84.9%)、業務プロセスの抜本的な改革・再設計(61.1%)という守りのDXで高い数値を出していることからも伺えます。
一方で、攻めのDXは、既存の商品・サービスの高度化や提供価値向上(34.4%)を基本に、軒並み20〜30%程度に止まっている状態です。この背景には、一般的な課題としても挙げられている以下があると考えられるでしょう。
- 技術的な準備不足
- 組織文化の課題
- リスクへの過度な懸念
- 戦略的ビジョンの不足
しかし、攻めのDXであっても成果の出る土台を有したロールモデルとなる企業が出てくると、より取り組みが本格化する見込みです。では、攻めのDXではどのようなメリットがあるのでしょうか。
攻めのDXのメリット
攻めのDXのメリットは、以下が挙げられます。
- データの可視化
- 既存サービスの改善
- 競争力の向上
- 市場への迅速な対応
- 顧客コミュニケーションの改善
- 新たな利益源の創出
データの可視化
データの可視化は、DXでも重要視されているものであり、戦略的な意思決定に必要不可欠です。自動集計や分析により、隠れたインサイトを抽出でき、迅速な意思決定が実現可能です。また、利用されていなかったデータの可視化により、新たな価値が生まれます。
例えば、販売データの分析により、顧客の購買傾向が明確になり、マーケティング戦略を練る際に役立ちます。さらに、業務プロセスのデータを分析することで、無駄な部分を削減し、全体の効率を高めることもできるでしょう。
既存サービスの改善
また、DXを通じて既存サービスの改善を行うことで、顧客満足度の向上と新規顧客の獲得も期待できます。デジタルチャネルの活用により、顧客との関係を強化し、詳細な情報に基づいた意思決定を行えるためです。
具体的には、顧客のフィードバックをデジタル化し、それを製品開発に活かすことで、市場の要求に応える製品が生まれます。また、顧客データを分析し、個々のニーズに合わせてカスタマイズしたサービスを提供することも可能です。
競争力の向上
DXによる競争力の向上は、ビジネスを次のレベルに引き上げる大きなメリットです。デジタル技術の戦略的導入により、ビジネスの柔軟性が高まり、市場の変化に迅速に対応できるからです。
例えば、クラウドベースのソリューションを導入することで、リモートワークが可能になり、労働力の多様性と生産性が向上します。また、新しい技術を活用することで、顧客に新たな価値を提供し、ブランドイメージを強化することも可能でしょう。
市場への迅速な対応
DXを進めることで、市場の変化への迅速な対応が可能になることもメリットです。柔軟なデジタル基盤を持つことで、顧客ニーズや市場動向の変化に素早く適応できます。
具体的には、ソーシャルメディアのトレンドをリアルタイムで分析し、即座にマーケティング戦略を調整できます。他にも、オンライン販売データを活用して、顧客の好みや需要をすばやく把握し、在庫管理や製品開発に反映させるなども可能です。
顧客コミュニケーションの改善
DXを通じて、顧客コミュニケーションを改善することで、顧客体験が向上し、CRMの効果も高めることができます。顧客の属性情報や行動情報、各チャネルの配信や結果に関するデータなどを統合し、より効果的なコミュニケーションが可能になるためです。
顧客の購買履歴やオンライン行動を分析することで、パーソナライズされたマーケティングメッセージを配信できたり、顧客のフィードバックを即座に収集し、サービスの改善に活かすことで、顧客満足度を高めたりするなどです。
新たな利益源の創出
最後に、DXの推進により、新しいビジネスモデルや製品・サービスの開発が可能になり、新たな利益源を創出できます。テクノロジーの進化により、今までのビジネスモデルでは考えることのできない新たな市場やニーズにアクセスできるからです。
例えば、ミスミグループの「meviy」プラットフォームは、製造業の効率化を実現しています。また、コマツの「DXスマートコンストラクション」は、建設機械業界でのデジタル活用を推進し、新たな市場を開拓しています。
攻めのDXを実践するためには?
攻めのDXを実践するためには、以下の取り組みが大切です。
- デジタル戦略の確立
- 顧客中心のアプローチ
- 新技術の導入
- データ活用と分析
- 柔軟性とイノベーション
- 連携と協業
デジタル戦略の確立
まず、「攻めのDX」を成功させるためには、明確なデジタル戦略の確立が必要です。企業の変革と改革を目指すものであり、経営戦略上の目的と目標の設定が欠かせません。経営層がDXをけん引し、企業全体の情報戦略を深く理解することが重要です。
デジタル技術を活用してビジネスプロセスを最適化する戦略を立てることで、効率と生産性を向上させましょう。必要に応じて、新しい市場機会を特定し、それに応じたデジタルイニシアティブを計画することも大切です。
顧客中心のアプローチ
また、顧客中心のアプローチは「攻めのDX」において不可欠なものです。具体的には、顧客フィードバックを活用してサービスの品質を改善する、または、デジタルプラットフォームを通じて顧客との新しい接点を創出することが考えられます。
これにより、既存の商品やサービスの高度化、提供価値の向上、顧客接点の抜本的改革が可能となります。
新技術の導入
加えて、新技術の導入はDXにおいて中核的な役割を果たします。デジタル技術の活用により、新しいビジネスモデルやサービスの開発が可能となるためです。
例えば、クラウドコンピューティングや人工知能の導入により、データ処理の効率を向上し、新しいサービスの開発を加速させるなどが挙げられます。新技術の導入はDX戦略の重要な柱となるため、コストとリソースを加味しながら進めましょう。
データ活用と分析
攻めのDXでは、データ活用と分析も必要となります。データドリブンなアプローチにより、企画立案や経営戦略の決定をデータに基づいて実施しましょう。
これにより、市場の動向を分析して新しいビジネスチャンスを特定する、または顧客データを利用して販路や集客戦略を最適化できます。守りのDXをベースに実施できるデータ活用と分析は、意思決定を支える役割を果たします。
柔軟性とイノベーション
一定のリスクが伴うものの、柔軟性とイノベーションも「攻めのDX」には必要です。小さな失敗を許容し、企業全体でのイノベーションやインテリジェンス化を目指しましょう。
柔軟性とイノベーションでは、新しいアイデアに積極的に投資し、失敗を恐れずに試行錯誤する組織文化を作ることが大切です。その結果、創造的な解決策やビジネスモデルを生み出す可能性を高めることができます。
連携と協業
最後に挙げられるのが、連携と協業の戦略です。すでに多くの企業が実施している守りのDXの成熟化を実現し、蓄積したデータを活用するためには、組織間の協力や外部との連携が有効だからです。
例えば、異なる業界の企業との提携により、新しい市場にアクセスできます。また、スタートアップ企業との協業により、イノベーションを加速させることも可能でしょう。
まとめ
DXには、攻めのDXと守りのDXという2つのタイプがあります。
攻めのDX | 既存のサービスやビジネスモデルを改善したり、新たな価値を創出したりする |
---|---|
守りのDX | 業務の効率化やコスト削減、リスク管理などを行う |
日本では、守りのDXが中心になっていますが、攻めのDXを進めることで、競争力の向上や市場への迅速な対応、顧客満足度の向上などのメリットが得られます。
また、攻めのDXを実践するためには、デジタル戦略の確立、顧客中心のアプローチ、新技術の導入、データ活用と分析、柔軟性とイノベーション、連携と協業などが必要です。
しかし、いずれにおいても、攻めのDXを推進していくために人材の育成が必要となります。ディジタルグロースアカデミアは、DX人材を育成できる豊富な研修を用意しています。まずは、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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